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第1部 一章 【財前姉妹】その2 第九話 土作り

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-03-21 10:00:00

22.

第九話 土作り

「ふーん。それ3索切りにしないの?」とミサトが聞いてきた。

「うん、まあ、何となく……」(声が聞こえたとか言っても誰も信じないだろうし……)

「当たりだったんだけどなあ。3索。鋭いね、さすがカオリ!」

「!」

 さっき聞こえた声が言ってたことは本当だった。不思議なこともあるものだ。

「さて決勝をやる前に少し休もう、お腹すいてないか? さっきカップ麺食べなかった子はお腹すいてきたら言えよ? お湯作るから」

「はーい! おなかすきました!」とヤチヨが手を挙げる。

「私も!」マナミもさっきはココア飲んでただけなのでお腹を空かせていた。

 2人ともカレー味を狙っているがカレー味は1つしかない。

「こういうのは先輩に譲るものよ?」とマナミが未だかつてないほどの圧をかけてきたがヤチヨもこれだけは従えなかった。

「私がこれは自分用に選んだんです。部長にだって譲れません!」

「仕方ないわね…… 勝負よ!」

「サイコロを2個振って出た目勝負…… ですね」

 麻雀部は何かあると決定するための勝負にサイコロを振っていた。2個振るのは同点になりにくくするためである。

「私から振ります」

 ヤチヨから行った

コンコロコン

5と6の11

「勝った! これは勝った!! カレー味は私のだ!!」

 さすがに11では勝ち確定みたいなものだ。

「いや、まだわかんないし! 12出せばいいんでしょ!」とマナミは諦めずにサイコロを持つ。

ヒュン

コンコロコンコン

 勢いよくサイコロが回転する。なかなか止まらない。

コロン

 ひとつは6

「おっ! 6出た! あともう一度6出ろ6出ろ6出ろ!」

コロン

4

  6と4の10

「あっぶな!」

「惜しかったーーー!」

 負けたマナミは残り物の塩味になった。

「塩って気分じゃないのよねー」

「まあまあ、塩だって美味しいですよ」

「じゃあ交換してよ」

「それはしませんけど」

 お湯が出来たので2人はカップ麺を作り始めた。

 3分経過

「塩うっま!」

 結局マナミは塩で充分満足していた。

◆◇◆◇

 決勝戦が始まる。

 トーナメント勝ち上がり選手はAグループからは部長の財前マナミと1年生の三尾谷ヒロコ。Bグループからは顧問の佐藤スグルと財前カオリ。

「点数は持ち越しなしでやります。優勝者は第一回優勝として名前を書いて壁に貼ります」

「ちょっと待てよ、おれの部屋だぞ!」

「なら問題ないわよね?」とユウが言う。マナミもニッコリと微笑んで圧力がすごい。

「…はー。まあいいか」

 話はついたので場所決めを行う。

東家 佐藤スグル

南家 三尾谷ヒロコ

西家 財前マナミ

北家 財前カオリ

 決勝戦の並びは以上のように決定した。

 スグルは実を言うとチーチャが好きなのでこの勝負貰った! と思っていた。出だしで大きくドカッと仕上げてペースを掴んでそのまま勝ち切るのはスグルの勝ちパターン。それにはチーチャスタートがうってつけなのである。

 だがしかし、開局してみるとスグルの配牌はかなり重かった。

(うわ~…… これテンパイも難しいな。守備的に打とう)そう考えて安全牌候補の字牌を溜め込んで端牌を捨てた所、捨てた牌やその周辺牌ばかり引いてきた。

 完全に裏目。強気に広く構えていればサクサクと有効牌を引き入れてかなり締まった手になっていたのにそれを逃したのはスグルの選択ミスでしかなかった。

(くそ、やっちまった。親番はあれほど押し有利だとこの子達にも教えてきたのに。いつの間にかこの子達の実力にプレッシャーを受けていたのか。弱気な選択を押し付けられたな)

「ツモ。ゴットー」

 まずはヒロコがタンヤオの愚形仮テン500.1000をツモあがりする。その時マナミはダマでピンフドラの2000点を張っていた。待ちは少し切られて少ないし三色手替りも引けそうだったのでダマにしていた手である。

(あー…… リーチかけとけば違う結果もあったっぽいな。失敗したかなー)

 もし、ヒロコがタンヤオの仮テンのままリーチをしていたらマナミがきっと追いかけてきたし、アガリを逃してしまったら流局時にリーチ棒を供託しているまま自分の親番が回ってくるので次局は供託の取り合いになるスピード勝負となりじっくり親番をやらせて貰えなくなる未来が予想できた。なのでこのヒロコのダマは非常に冷静な判断であると言える。待ちが少ないからダマというだけじゃない。次局が親番だからダマなのだ。連荘は南家の時から準備する。それはヒロコにとっては当たり前の考えだった。

 ヒロコの祖父は農家なので、作物を作るにはまず土作りからとよく聞かされていた。麻雀もそれと同じとヒロコは理解していたのである。

 勝てる環境を整えて戦う。それが麻雀軍師と後に呼ばれる三尾谷ヒロコの兵法だった。

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