22.
第九話 土作り
「ふーん。それ3索切りにしないの?」とミサトが聞いてきた。
「うん、まあ、何となく……」(声が聞こえたとか言っても誰も信じないだろうし……)
「当たりだったんだけどなあ。3索。鋭いね、さすがカオリ!」
「!」
さっき聞こえた声が言ってたことは本当だった。不思議なこともあるものだ。
「さて決勝をやる前に少し休もう、お腹すいてないか? さっきカップ麺食べなかった子はお腹すいてきたら言えよ? お湯作るから」
「はーい! おなかすきました!」とヤチヨが手を挙げる。
「私も!」マナミもさっきはココア飲んでただけなのでお腹を空かせていた。
2人ともカレー味を狙っているがカレー味は1つしかない。
「こういうのは先輩に譲るものよ?」とマナミが未だかつてないほどの圧をかけてきたがヤチヨもこれだけは従えなかった。
「私がこれは自分用に選んだんです。部長にだって譲れません!」
「仕方ないわね…… 勝負よ!」
「サイコロを2個振って出た目勝負…… ですね」
麻雀部は何かあると決定するための勝負にサイコロを振っていた。2個振るのは同点になりにくくするためである。
「私から振ります」
ヤチヨから行った
コンコロコン
5と6の11
「勝った! これは勝った!! カレー味は私のだ!!」
さすがに11では勝ち確定みたいなものだ。
「いや、まだわかんないし! 12出せばいいんでしょ!」とマナミは諦めずにサイコロを持つ。
ヒュン
コンコロコンコン
勢いよくサイコロが回転する。なかなか止まらない。
コロン
ひとつは6
「おっ! 6出た! あともう一度6出ろ6出ろ6出ろ!」
コロン
4
6と4の10
「あっぶな!」
「惜しかったーーー!」
負けたマナミは残り物の塩味になった。
「塩って気分じゃないのよねー」
「まあまあ、塩だって美味しいですよ」
「じゃあ交換してよ」
「それはしませんけど」
お湯が出来たので2人はカップ麺を作り始めた。
3分経過
「塩うっま!」
結局マナミは塩で充分満足していた。
◆◇◆◇
決勝戦が始まる。
トーナメント勝ち上がり選手はAグループからは部長の財前マナミと1年生の三尾谷ヒロコ。Bグループからは顧問の佐藤スグルと財前カオリ。
「点数は持ち越しなしでやります。優勝者は第一回優勝として名前を書いて壁に貼ります」
「ちょっと待てよ、おれの部屋だぞ!」
「なら問題ないわよね?」とユウが言う。マナミもニッコリと微笑んで圧力がすごい。
「…はー。まあいいか」
話はついたので場所決めを行う。
東家 佐藤スグル
南家 三尾谷ヒロコ
西家 財前マナミ
北家 財前カオリ
決勝戦の並びは以上のように決定した。
スグルは実を言うとチーチャが好きなのでこの勝負貰った! と思っていた。出だしで大きくドカッと仕上げてペースを掴んでそのまま勝ち切るのはスグルの勝ちパターン。それにはチーチャスタートがうってつけなのである。
だがしかし、開局してみるとスグルの配牌はかなり重かった。
(うわ~…… これテンパイも難しいな。守備的に打とう)そう考えて安全牌候補の字牌を溜め込んで端牌を捨てた所、捨てた牌やその周辺牌ばかり引いてきた。
完全に裏目。強気に広く構えていればサクサクと有効牌を引き入れてかなり締まった手になっていたのにそれを逃したのはスグルの選択ミスでしかなかった。
(くそ、やっちまった。親番はあれほど押し有利だとこの子達にも教えてきたのに。いつの間にかこの子達の実力にプレッシャーを受けていたのか。弱気な選択を押し付けられたな)
「ツモ。ゴットー」
まずはヒロコがタンヤオの愚形仮テン500.1000をツモあがりする。その時マナミはダマでピンフドラの2000点を張っていた。待ちは少し切られて少ないし三色手替りも引けそうだったのでダマにしていた手である。
(あー…… リーチかけとけば違う結果もあったっぽいな。失敗したかなー)
もし、ヒロコがタンヤオの仮テンのままリーチをしていたらマナミがきっと追いかけてきたし、アガリを逃してしまったら流局時にリーチ棒を供託しているまま自分の親番が回ってくるので次局は供託の取り合いになるスピード勝負となりじっくり親番をやらせて貰えなくなる未来が予想できた。なのでこのヒロコのダマは非常に冷静な判断であると言える。待ちが少ないからダマというだけじゃない。次局が親番だからダマなのだ。連荘は南家の時から準備する。それはヒロコにとっては当たり前の考えだった。
ヒロコの祖父は農家なので、作物を作るにはまず土作りからとよく聞かされていた。麻雀もそれと同じとヒロコは理解していたのである。
勝てる環境を整えて戦う。それが麻雀軍師と後に呼ばれる三尾谷ヒロコの兵法だった。
23.第十話 woman「リーチ」 東2局にマナミからのまさかのダブリーが入る「うそでしょー!」「早すぎるぅ」 リーチ宣言牌は⑧筒。場には親のヒロコが捨てた中と⑧筒しか情報がないままカオリの切り番になった。安全牌は当然ない。カオリ手牌 切り番三伍八①③④⑦137東北白発 ドラ北(こんな手からじゃ勝負になるわけもない。降り切らなければ。しかし、どうやって?) とりあえず白でも切ろうかと手を伸ばしたその時。《⑦筒を切りなさい》 またあの声が聞こえる。(⑦筒? なんでまた)と思いながらもカオリは⑦筒を切る。通った。 その後はスグルやヒロコが色々通してくれたのでカオリは降り切り流局寸前でスグルがマナミからタンヤオイーペーを出アガリ。カオリは失点0でやり過ごすという今の状況から考えたらベストと言える結果の1局になった。(あの声はなんなんだろう。気になるなあ…… でも、味方みたいだしまあ、いいか。今は、集中だ) 幻聴だろうとファンタジーだろうと超能力だろうとどうでも良かった。いま、目の前で起きている真剣勝負。それから目を逸らす余裕はカオリにはないし、勝負以外のことなど、どんなに不思議なことであれ、あまり興味がなかった。 (さっきのカオリ先輩の⑦筒切り。なんでだろうね? ヤチヨはわかる?)とアンがヒソヒソとヤチヨに話しかける。(わかんないです。私なら字牌とか①筒あたり切りそうですけど)(だよねえ、私もそう。独特だったよね) アンとヤチヨはカオリの麻雀に興味を持ちそれからじっと張り付いて見ることにした。(なんか見てるな…… ⑦筒切りの理由とか聞かれたらなんて答えよう)カオリはふとそう思ったが余計なことを考えていたら急にスグルのダマに放銃してしまった。「3200」 一手替わりで四暗刻になる三暗刻のみのカンチャン待ちに刺さる。(しまった。全然気付いてなかった。声はいつでも聞こえてくるわけじゃあないのね……) むしろ四暗刻になる前に放銃しておいて助かったかもという風に良い方向に捉えて気を取り直す。東4局 カオリの親番が始まる。コンコロコロ…… サイの目は1と4の5「自5っと」 カオリは自分の山を少しだけ覚えてた。わざわざ覚えようと思ってたわけじゃないが白を3枚適当に積んだのは何となく記憶にあった。すると、ドラが白。しかし、
24.ここまでのあらすじ 麻雀部は人数が増えて8人になり部内最強を決める麻雀大会を開くことにした。すると主人公カオリに助言する声があった。声の主は自分を【woman】というが……? 謎の声【woman】とは一体? そして、麻雀部最強は誰になるのか?!【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。読書家でクールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマった。名前の通りのとっても優しい女の子。お兄ちゃんの事が大好き。竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。ふとした偶然が重なり麻雀をすることになる。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『ひよこ』という場末雀荘のメンバーをしている。人手不足からシフトはいつもランダム。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているがそれ程気にはしていない。井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派雀士。怠けることを嫌い、ストイックに生きる。中條八千代なかじょうやちよ通称ヤチヨテーブルゲーム研究部所属の穏やかな少女理解力が高く定石を打つならコレという判断を間違えない。三尾谷寛子みおたにひろこ通称ヒロコテーブルゲーム研究部所属の戦略家ゲームの本質を見抜く力に長けていて作戦勝ちを狙う軍師。その3第一話 オーラ 東4局一本場はwomanの声は無かった。だがカオリはそんなことは別に気にしてなかった。堅実に丁寧にピンフを作ってリーチした。カオリ手牌一二三六七八③④⑥⑥123 勝負手の入っていたスグルが放銃して2900は3200。さっきのダマ三暗刻の時払った3200を返してもらった。(よーし、悪くない。1番格上のスグルさんからの直撃なら3200だって充分だ) 続く二本場はwomanの気配はしたが何も言われなかった。すんなりリーチしてツモ。カオリ手牌二三四四赤伍六①①①③567 ツモ②「ツモ。2000は2200オール」《うん、その調子!》(あ、やっぱりいたんだ)《なにも言う事無い時まで話しかけたりはしませ
25.第二話 雀士のプライド「リーチ!」 スグルの先制リーチだ。一方まだカオリは愚形残りの二向聴。カオリ手牌二四八九九②②④⑥⑦⑧北北 この手ではさすがに降りるしかない。するとスグルのリーチの一発目にマナミがスグルの捨てた牌のスジから切る。そこにカオリは少しの違和感があった。 カオリのツモは伍萬 全員に安全な北の対子落としで様子見しつつ降りることにした。(全国共通安牌を使うのは勿体無いけど、マナミのスジ切り。引っかかるものがある。探りを入れて慎重に降りたいからね。安全情報は増えないようにしていこう)《鳥立つは伏なり。ということですね。素晴らしいです、カオリ》(あれ、womanいたの?)《いま来ました。それよりカオリ。マナミを警戒しての判断。実にいいですね!》(鳥立つは伏なりって孫子だっけ? 読んだ気がする)《そうです、あのスジ切りは親のリーチに勝負してますよね。そこに伏兵の存在を感じます》(パタパターって鳥が飛び立った感じするよね。ここに人隠れてるよーって) 次巡。マナミは親リーチのド本命牌を引く。(こんなの引いたらダマってる意味ないわね!)という顔をしている。つまり。「……リーチ!」「ロン」 その牌は通らなかった。スグルのメンタンピンドラ1が炸裂する。「12000点」「……はい」 はい、と言いつつもとても悔しそうなマナミ。しかしマナーはマナーだ。放銃者は和了者に点数を渡す際には必ず「はい」と一言そえる。それが麻雀のマナー。その程度のマナーを部長が守らないというわけにはいかない。どんなに悔しくてもその二文字をなんとか絞り出して声にする。それこそが雀士のプライド。「まだ、負けたわけじゃないし!」切り替えて顔を上げるマナミは気合いのオーラを絶やさずに纏っていた。
26.第三話 降り損 一本場。12000加点したスグルに追加点を許す程甘い少女達ではなかった。これ以上離されないよ。とすぐにマナミは1000.2000の一本場をあがり返して局を進める。「本当は最高形まで育てて跳満の親被りさせたかったんだけどね。まあ、和了れたならよしとするわ」南2局(ここだ! ここで決めないと優勝はない!)ヒロコはそう思っていた。現在の点棒状況はスグル32000点ヒロコ20400点マナミ18900点カオリ28700点 たしかにトップになるにはこの親番で一撃決めたい所である。祈るように配牌を取るそのヒロコの指先にはやはりオーラが集中していた。(あ、またオーラだ。……聞きたい時いないんだよなー。配牌のタイミングとか全然居ないし) 気合いを入れて配牌を取ったヒロコだが、良いとも悪いとも言えない普通の配牌だった。この局に手が良かったのはマナミだ。「リーチ」マナミは5巡目にテンパイ即リーチとし、そして――「ツモ!」マナミ手牌一一一八八12345678 9ツモ「リーチ一発ツモイッツー! …2000.4000!」 裏が無かったのだけが唯一の救いだったが2種類安目のある3面待ちで高目ツモはキツい。(うわ、最悪。降り損だ。一発で本命の3索引いて回しちゃった、打った方が全然良かったなあ)とヒロコは後悔した。親のヒロコは4000点の払いだ。3索を勝負していれば一発といえども安目なので2600失点で済んでいた。しかしそんなことは分からないのだからそれはちょっと仕方がない。ヒロコの手が3索に対応出来ないような手であれば親番なので真っ向勝負で打っていただろう。だが残念ながら今回の手は3索に対応可能な形をしていた。つまり本当の不運は3索を掴んだことではない。3索を止めて、うまいこと迂回すれば復活出来そうな手が来てしまったことが不運だったということだ。スグル30000点ヒロコ16400点マナミ26900点カオリ26700点 満貫は炸裂したものの、まだ誰も諦めるような点差にならないまま勝負は南3局へ。 南3局はマナミの親番だ。前局の満貫ツモでトップへあと一歩という所まで来ており今1番警戒すべき相手かもしれない。しかし、そんなことで怯んではいられない。もう勝負は残り2局なのだ全員がトップを取るための最善手を選んで前進してくる。ここは
27.第四話 赤伍萬 カオリはまだ中学生の頃に道端で麻雀牌を拾ったことがあった。「綺麗……」(これ、麻雀牌ってやつかな。真っ赤で、宝石が付いてて。素敵だな)「あ、あった! ゴメンそれ僕の!」そう言ってる人は細くて清潔感があり真面目そうな青年で、麻雀牌を落としたのが彼だというのがカオリには意外だった。「キーホルダーだったんだけどとれちゃったか。気に入ってたんだけどな」 たしかに、よく見るとその牌の上部にはネジ穴のようなものがあいていた。「お嬢さん、さっきそれじっと見てたけど、気に入ったのかな? 壊れちゃったので良ければあげるけど」「いいんですか!?」「うん。それがきっかけで麻雀に興味を持つ子が増えたりしたら僕も嬉しいし。一応とれたチェーンもあげとくね。大事にしてあげて」「ありがとうございます!!」「うん、いいよ。やっぱり宝石は男が持つより女の子にこそ似合うしね。きみに貰って欲しいってきっと牌も言ってるさ」 そう言って麻雀牌の落とし主は去っていった。 カオリは接着剤を使ってキーホルダーを直し、ウエットティッシュで丁寧に拭いた。それを自分の部屋の電気スタンドにぶら下げて毎日ホコリを払ったり拭いたりして大切にした。 とても気に入っているので持ち歩いたりはしなかった。落としたら大変だ。事実、前の持ち主は落としたわけだし。 何日も何年もカオリはその牌を大切にした。 ダイヤのような宝石が入ったその牌の名称は『赤伍萬(アカウーマン)』────────────南4局 最終局のサイを振る。トップ目に立ったカオリの親番なので何があってもこの1局がラストチャンスだ。コン、コロコロコロ……1と2の3「対3か」 カオリが対面の山から配牌を取る。ドラは②第1ブロック伍19①《配牌悪そうですね。いきなり1、9牌が3枚もあるなんて》(あ、woman。今回は現れるの早いね)《あなたが引いたからですよ、まだ分からないのかしら》 引いたから? どういう意味だろうか。第2ブロック白六九西《リャンメンターツが出来たけど、ひどいわね》(まだ分からないよ、役牌重ねるかもだし)第3ブロック中発③5(役牌重ならないなー、増えたけど)《いや、カオリ! これあと1枚ヤオチュウ牌引けたら九種九牌で勝ちですよ!》(そっか! チョンチョンで1
28.第伍話 私がナンバーワン! womanはどうやらカオリが伍萬に触れると数分間だけ現れるようだ。通りでいたりいなかったりするわけである。 カオリの手は進んで6巡目。やっと形になってきた所でマナミとスグルからリーチが入る。それに対してヒロコも降りてない。(やばいやばいやばいやばい。まくられるよこれ)《落ち着いて、カオリ。まだ、そうと決まったわけではありません》(でも!)《ヒロコさんの手はあの切りで逆転狙いなら四暗刻か萬子チンイツです。チンイツならここにある伍萬がネックになってる可能性は高いでしょ》オーラスの点棒状況はスグル 30000点ヒロコ 7900点マナミ 26400点カオリ 35700点 事実、ヒロコの手はチンイツで伍萬がネックになっていたし、まだリャンシャンテンだ。しかしテンパイすればタンピンメンチン二盃口という逆転勝ちの可能性があり、諦めるには早かった。というより、ヒロコは確率的にはほぼ無理だろう。と思ってはいる上で分かっているけど牌に対して精一杯の努力はするという姿勢を見せたに過ぎなかった。 それは決勝戦という場に対して。または麻雀という競技に対して。そういったものに対する誠意。感謝の心からなる選択だった。なので可能性あるかぎり押す! 三倍満が必要でも、その手順があるのなら作るしかない! そう思って、最後の、もうほとんど断ち切られてしまった気力の残り僅かな力を振り絞って作るが、そこはまあ、さすがにそう都合よくはいかないのも麻雀のリアルであった。 「リーチ!」 スグルからのリーチが飛んでくる。 スグルの手は高めタンヤオ赤の1-4待ち。安目ツモでも捲れるようにとリーチした。 「私もリーチ!」 それはマナミも同じで、マナミも安目だと届かない手だった。なのでリーチで決めにきた。 2軒のリーチに挟まれてもまだカオリに勝機は充分あったのである。 ◆◇◆◇ 思っていたより局は長引き、カオリの手も整った。カオリ手牌赤伍伍伍六七①③115中中中 ついにあの配牌がイーシャンテンだ! だがまだ急所が埋まらない。ドラが引けたらいいのだが、そこが埋まらないことには5索を切りにくい。と、思っていたのだが――ツモ②! なんとズガコンと埋まる! 待ち望んでいたドラ②!《通せ》(通せ!)打5 それはスグルにもマナミにも危
29.第六話 芸術家マナミ「さて、いつも通り感想戦といきたい所だけど今日は遅いから帰りなさい。今日疑問があったことは忘れないうちに何かにメモしておいて後日それについて検討します。それでは解散! なるべく明るい道を通るなどして気をつけて帰るように」「「ありがとうございました!!」」 少女達はいつも通り部屋を片付けようとするが「今日はいいから早めに帰りなさい。もう真っ暗だから片付けはおれとユウでやっとく」とスグルは少女達を帰した。「ありがとうございます」「じゃあな、おやすみ」──── 少女達は様々な会話をしながら駅までの道を歩いた。 とくに1年生達は麻雀の会話で盛り上がっていたので⑦筒切りの謎など質問されてはかなわんと思ったカオリはミサトやマナミと一緒に恋バナをしながら歩いているグループに混ざってやり過ごした。「ミサトはモテるでしょう? すごくキレイだもんね」「そんなわけないじゃない! 私みたいなこんな気の強い女はモテとは無縁よ」「ひそかに気にしてる男子はたくさんいそうだけどねー」「そんな弱気な男はこちらから願い下げよ」「ははっ! そりゃそうよね」「マナミこそモテるでしょう?」「当たり前じゃない。私はモテまくりよ。特に女子から……」「なんか分かる気もする」「やめてよ、私はノーマルよ。なんでこうなってるのか分からないんだから」2人の話を聞いていたらカオリにも質問が飛んできた。「カオリはモテるわよね」 そう、カオリはモテるのだ。男子人気はクラスNo.1と言っていい。そんなカオリだが彼氏を作ったことはなかった。「なんだか好かれてることはよくあるけど、私のどこを好きなのか分からないし。私は今はお付き合いとかしてる時間もないし。あまり興味もないから」「言ってみたいわそんな事」「カオリと私達のどこにこんな差があるのかしら。おかしいわ」 するとアンが横から入ってきた。「確かにカオリ先輩はモテてます。でも、それってドラの受け入れが無い手の人が何枚もドラを持ってくるようなもので毎回引いては切ってのムダヅモですよね」カオリはまさにそれ! と思い笑った。「いらないのになんとなくキープしても後で切るのがつらいだけだし。アンはうまいこと言うわね」「私らは彼氏(ドラ)受けあるんだけどなぁ」「世の中うまく噛み合わないわね」 ほんと人生と
30.第七話 womanの麻雀講座 カオリは風呂場にキーホルダーの赤伍萬を連れてって今日のことを聞くことにした。制服と下着を洗濯機に入れて風呂場に入る前に赤伍萬に触れる。キーホルダーの金具が錆びてしまわないようにと思い赤伍萬は脱衣所に置いておくことにした。(womanいま居る?)《居ますよ。1人なんだから脳内でじゃなくて普通に話してもいいのでは?》(だめだよウチの風呂場は声が響くもん。カオリは誰と話してんだ? って思われちゃう)《そうですか、それで。何か聞きたいことがあって呼んだんでしょう?》(今日の113からの1切り推奨はどうしてなのか考えたんだけど、単純にタンヤオ警戒とは違う気がしたんだよね。なんかそれにしては絶対3は危ないからやめなさいみたいな…… なんていうか、主張が強かったように思う。womanは全てお見通しなわけではなくて合理的な答えを導いてくれてるんでしょ。なら、あれの理由はなんだったんだろうって考えてた)《鋭いですね、カオリ》(だってwomanいても負けたし。必ず勝てるってわけじゃないのは分かったわ)《私はあなたのために居る付喪神ですからね。あなたが望まないことは出来ないんです。カオリは自分が強くなりたいのであって不思議な力で万能になることは望んでません。なので私ができることは合理的正着打への導きだけなんです》 そういうことか。とカオリは納得した。(そうなのね。それで1切りの答えは? 知りたいな)《あれはですね……》 womanの麻雀講座はとても面白く合理性があり、そして斬新だった。 カオリは数分ごとに消えるwomanを復活させるために浴槽と脱衣所を何度も行き来するのであった。◆◇◆◇【womanの麻雀講座】 113はなぜ、1索切りなのか? あの時の状況はアガリが必ず欲しいオーラスでした。そこで1巡目456のリャンメンチーから入る。それには456でなければならない理由がありそうです。 つまりソーズのイッツーとか。であるとしたら待ちの形が12や13となってる可能性は高そうだけど23となってるという可能性は低く思える。イッツーが確定していないからです。イッツー確定を可能とする形が残っているのであれば4のリャンメンチーから入るのも合理的だと言えるでしょう。よって1切りの方が安全性が高い選択となります。 ⑧切りダブリー
76.第十伍話 新人王戦へ向けて「……って言うのが私と師匠の出会いなんだけど。その師匠が久しぶりに大会決勝に駒を進めて、しかし惜しくも敗れた。それもアマチュアに。それで、その大会で優勝したそのアマチュアってのがアナタの親友だっていうんだから麻雀界は狭いわね」と成田メグミはカオリに話す。「ですね。ユウは本当にすごいんですよ」「じゃあプロになればいいじゃない」「それは違うらしくて……」「今度彼女も連れて来なさい。アマチュアの参加も大歓迎だから」 今日は杜若アカネと成田メグミの主催する麻雀研究会だった。カオリは今回アカネが他の仕事でどうしても来られないという事なので成田の助手として参加し、ついでに自分も勉強させてもらうことにした。ちなみにマナミは『ひよこ』でバイトだ。3人とも抜けるのはリーグ戦の時のみ、基本的には誰か出勤するようにしていたので今日の出勤はマナミなのである。 カオリは最近はどこに行くにもポケットに赤伍萬を入れた巾着を持参していた。 《カオリ、ここにいるのは全員プロなんですか?》(分かんないわよ、私は麻雀マニアであって麻雀プロマニアではないから。だいたいプロ雀士は多すぎるのよ)《それは言えてます》「私もね、若い頃は準優勝2回したってだけでも期待の新人とか言って特集されたし、結婚前は『氷海メグミ』だったから、冷静沈着、氷の少女、とか言われててね」「へぇーカッコいい」「別に言う程クールな麻雀してたとは思わないんだけど苗字になぞらえたキャッチコピーを作りたかったんでしょうね。キャッチコピーなんてテキトーなんだなってあの時知ったわ」「メグミさんはどっちかって言うと熱い打ち手ですもんね」「そうよ! でも、今はある程度いい成績出しても当たり前みたいな風に見られるだけのベテランになっちゃったわ。も
75.第十四話 アカネとメグミ 杜若(かきつばた)アカネは杜若家の次女で小説が好きな子供だった。特に好きなのは推理小説で探偵ものには目がなかった。そんな小学生だったので世間には少々変わった子だと思われた。 ある日、何を思ったかホームセンターに行った際に乾電池をポケットに入れてレジを通さず持ち帰ってしまった。それは無意識のうちの万引きだったが、この時こう思ってしまった。(万引きって気付かれないんだな)と。 そして、それ以来(探偵練習ごっこ)と称して、やれ針金を万引き。やれボルトを万引き。と必要のないものを(名探偵ならこのくらいやってのけるはずだ)というよく分からない理由で窃盗した。 しかし、それが何回か成功してエスカレートし、次は下州屋という釣具店でフライフィッシングの疑似餌セットを盗もうとした……が。「ちょっと来てもらおうか」 店長と思われる人物に腕を掴まれる。「ポケットの中、見せて」「…はい」 アカネは素直に降参して疑似餌セットを出した。「これだけで全部?」「全部です」「いま警察呼ぶから。あとは警察の人に任せるから、この部屋で反省して待ってなさい。私は忙しいからもう店番に戻るけど、二度とやらないように!」「…はい」数十分後 お巡りさんが到着する。アカネは近くの派出所に連れて行かれた。「なんであんな必要ないものを盗もうとしたのかな?」「…探偵ごっこでした」「え?」「名探偵に憧れてて……探偵ならあれくらいわけなく盗み出しそうだなって」「呆れた、それは探偵じゃなくて怪盗じゃないか。敵だよ敵」
74.第十三話 ホール捌き 泉テンマは池袋の駅前喫茶店で働いていた。そこは自分のイメージしていた喫茶店の仕事とはまるで異なり、ひたすらハードな労働だった。「喫茶店っていったら浅○南の実家みたいなのんびりした感じじゃないのかよ…… すげえキッツイじゃん……」 トゥルルルルル! トゥルルル…「はい! お電話ありがとうございます。まーじゃ…(じゃなくて)喫茶pondです」『まーじゃ?』「あ、ごめんなさい。つい最近まで働いてたのが雀荘だったもので、うっかり」『泉くんか。私、石田。あのさ、店長いるかな』「ちょっと今、近くに買い物行ってますね。多分すぐ戻りますけど」『あっ、そう。じゃあ伝えておいて欲しいんだけど、今日子供が熱出しちゃって病院行くから2時間くらいは遅刻するって言っておいて。その後は分かり次第また連絡するけど、最悪休むかもしれないから』「分かりました、お伝えしておきます」『じゃ、悪いけどお願いね』「いえ、お気になさらず」『ありがとう』 そんなわけで今日はテンマがホールも担当することになった。そこでテンマの先読みしたホール捌きが開花する。(あの3人は窓から目立つ所に案内して店内が繁盛している風に見せよう)やら(あの席は1人で静かにコーヒーを楽しむ人のための席だから近くにはギリギリまで人を案内しないよう配慮してキープしよう)やら(ちょっとマナー悪そうな人だな。酔っているのか? 常に視界に入るようにレジ近くに案内した方いいだろう)などの理由で人を案内配置して店内を支配した。 それらをやった上でレジ横の簡易キッチンでパフェやコーヒーを作り。厨房でナポリタンを作り、洗い物もした。(疲れた~。もうだめ、もう帰りたい) 石田が来
73.第十二話 真のサービス業 スグルの接客は高く評価された。それは何も卓外のことだけではない。スグルは卓内でも優れた接客をする従業員だった。その最たるものが、人知れず行う、誰にも気づいてもらえず感謝もされない接客にあった。 ラス前の北家でスグルがトップ目という時にそれは遠目に卓を見ていた1人立番のマサルにだけ発覚する。東家1巡目打北南家1巡目打北西家1巡目打北 と来て、スグルの手は一二三①③⑥⑦125578北ドラは④ 配牌でピンフ三色のリャンシャンテン……というか北を持っているからそれを切ってしまえば4人全員が1巡目に同じ風牌を切ることによって起きる特殊ルール『四風子連打』が発動してスグルのトップ目のままオーラスを迎えられる。 親は2着目なのでその方が絶対いい。しかし、この時代の麻雀店にはメンバー制約というものがあり(従業員による途中流局は禁ずる。※オーラスのトップ確定終了時は例外とする)というものがあった。つまり、この手は流せばトップが転がりこんできそうだが、流すわけにはいかないのがメンバー制約ということだ。そのことはもちろんスグルは承知している。(『うわ、流してぇー』って思ってるだろうな。それでも……)北家(スグル)1巡目打①(うん。よくその手、この点棒状況から三色捨ててまで制約を守った。偉いぞ!)スグル2巡目ツモ⑤
72.第十一話 贅沢な生き方「はー、食べた食べた。ごちそうさまでした」 紙ナプキンで口元の汚れを拭うとメグミは先程の話の続きをし始めた。「でえ、井川さんの何が凄かったかって大三元の局ね」「あれは凄かったですよね!」とマナミも言う。「うん、結果的にアガれたし。凄いのだけど。何が凄かったかはその結果の部分じゃないの」「っていうと?」「あの時、私は井川さんの対面の手を見てたわ。対面にいたのは私の同期だからちょっとだけ興味があったの。そんなに仲良しでもないんだけどね」「そう言えば対面を見てましたね」「うん、でもね。途中で遠くから見てるマナミの瞳孔が開いたの。動きも止まるし。カオリちゃんなんか『ぽかん』と口開いてるしで。(何かが起きてる)って思って。自販機に飲み物買いに行くふりして移動してみたわ。対局者の周囲をグルグルするのはマナー違反だからね、さりげなーく移動したのよ。そしたら大三元じゃないの」「ど、瞳孔??」かなり離れて見ていたつもりだったがメグミはどんな視力をしているのだ。いや、それよりも。なぜ外野の反応に気付いたりできるのか。プロはこわいな。と思うマナミたちだった。「少なくとも、私の同期はそれで気付いて止めたっぽいわね。本来なら一萬が止まる手ではなかったから」「そんな、ごめんねえミサトぉ」「いいわよ、おかげで大三元になったし、結果オーライよ」「凄いのは井川さんのその雰囲気。全然分からなかった。少しも役満の空気にはなってなかった。たいした手じゃないよ、みたいな顔で。あんな演技はなかなか難しいわ」「あの時は自分は5200を張ってると思い込ませていたので」「どういうこと?」「あの白仕掛けはマックス16000ミニマム5200のつもりで鳴き始めた手でした。なので5200だと思い込んで打つことで役満を悟らせない空気作りを心掛け
71.第十話 レートはタバスコ「はい、チキンステーキとラージライスです。器はお熱いのでお気を付けください」「はい」とカオリ。「スパゲッティナポリタンとほうれん草のソテーです」「はーい両方私です」と奥から手を伸ばしてミサトが受け取る。「いただきまあす」「ちょっと私タバスコとってくるね」とミサトが出ようとするので「いいよ私が持ってくる。私もちょうど飲み物おかわりしたかったし」とカオリが気を効かせる。「ありがとう、じゃあお願い」「タバスコと言えばさ。レートはタバスコって話知ってる?」とマナミが言ってきた「なにそれ、知らない」「ネットで麻雀戦術論を公開してる『ライジン』って人の記事が面白くて。その人の日記に麻雀のレートについて書いた記事があったんだけど。それがすごくいいのよ」 そう言うとマナミはそのSNSを開いて見せてくれた。◆◇◆◇××年××月××日××時××分投稿者:ライジン【麻雀のレートについて】 ごきげんよう、ライジンです。 今回は麻雀のレートとギャンブルについて語って行こうと思います。 結論から申し上げて、麻雀はギャンブルの部類に属さない。素晴らしい『競技』です。なぜなら、麻雀はあまりにもルールに縛られているゲームであるから。 まず、リーチについてですけど。 麻雀がギャンブルだと言うのなら勝負手なので10倍賭け
70.第九話 3面張固定のリスク「「カンパーイ!」」カチン! 学生3人はドリンクバーのコーラとメロンソーダで。メグミは中生で乾杯した。 ゴクッゴクッゴクッ! と生ビールを飲むメグミはどこかオッさんぽくもあるが、大人の女性の色っぽさもあり魅力的に見えた。「……っはーー! ウマい!」 メグミはテーブルに4分の1の大きさに折って敷いたおしぼりの上に中ジョッキをゴン! と置くと今日の事を話し始めた。「まず、マナミは最強。まじでつよい。アンタには才能を感じる」「えへへ~。そうですよねえ」となぜかカオリの方が喜ぶ。「あんたら2人はさっさと上位リーグに上がって麻雀界を盛り上げちゃいなさい。今の調子なら出来るでしょ」「がんばります」「んでぇ。井川さん」「はい!」「最終戦だけ見てたんだけど、素晴らしいわね。特筆すべき点はふたつあったわ」「ど、どこでしょう」「ちょっと紙とペンない?」「あります」とカオリがスッと差し出す。カオリは何かあればすぐメモ書きして自分のノートに書き込む習慣があるので筆記用具を持っていない時などない。ポケットの中には小さなリングノートとボールペン。それと小さな巾着袋。袋の中には赤伍萬が入っている。裸で持ち歩いていると、もし仮に対局中に病で倒れるなど不測の事態で気を失った場合にポケットを探った人がこれを見つけたらイカサマを疑うかもしれない。なので巾着に入れて持ち歩くことにしたのだ。「ありがと」と受け取るとメグミはサラサラと牌姿を書いた。三三四③④⑤⑥⑦⑦56799 ドラ5「この形」「あっ、私の五回戦東2局!」「そ
69.第八話 伝説の姉妹「はい、全卓終了しましたので新人は牌掃除をして他の選手は速やかに退場して下さい。お疲れ様でした!」 全ての卓が対局を終えたら新人は牌をおしぼりと乾いたタオルで磨いてキレイにしてから会場を出る決まりだ。仕事でいつもやっているカオリとマナミは素早いがミサトは初めての事なのでカオリに教えてもらいながらやるが、中々うまく牌が持ち上がらない。それもそのはず、全自動麻雀卓は牌の中に鉄板が入っていてそれを卓が磁石で持ち上げて積んでいく仕組みだが、プロリーグは対局前に牌チェックという作業を行い少しでも亀裂や落ちない汚れ、欠けてる角などを発見したら即交換するので牌の中にある鉄板の帯びた磁力がマチマチ。持ち上げようとしてもカチッと揃いにくいのだ。「これは、ミサトじゃムリかもね。私達でやるからミサトはその辺でメグミさんと待ってて」「わかった」 カオリは手先が器用なので扱いにくいリーグ戦の牌もチャチャッとキレイにして2卓分清掃した。「はやーい」とマナミも驚く。「じゃあ行きましょうか」と成田メグミが先導する。新人3人にゴハンを奢ってくれるらしい。 3人は初めてのリーグ戦を終えて自分はついにプロ雀士になったんだ。という実感をしていた。それは、カオリにはひとつの夢だった。(夢って叶うんだなあ)そう思っていたらさっき牌掃除をした時から現れていたwomanが《何を言ってるんですか》と思考に入り込んできた。《まだこれからですよ。でも、今日の対局。いい麻雀してましたね。私は嬉しいです。カオリはどんどん強くなる》(コーチがいいからね)《そうですよ、神様を味方につけた姉妹なんてきっとあなた達だけですよ。伝説の姉妹になりなさい。きっとその願いは叶いますから》「カオリちゃんさっきから無言だけどどうしたの?」「へっ? あ、ああ。なんでしたっけ」「だからー、和食と洋食どっちにするかの話でしょ」
68.第七話 試される時 財前姉妹が暫定1位2位という衝撃的なデビューを飾っている時、井川ミサトだけが絶不調だった。なんと、ミサトはラスラスラスと3連ラスを引いて身も心も打ちのめされていたのだ。 しかし、そんな時だからこそプレイヤーの真価が問われる。この今日の最終戦でどんな麻雀が打てるか。 3回ラスになろうとリーグ戦は始まったばかり、5節あるうちの1節目なので20回戦のうちのほんの3回に過ぎない。ここは気持ちを切り替えて行くのが正解だが、初めてのリーグ戦でラスしか取れない状態から復活できるか。不調を抜け出せるか。マイナスイメージを持たないで戦えるのか。まだ学生のミサトにそんな精神力があるのか。 いま、ミサトの器が試される。 ひとつだけ幸運だったことがあるとすればミサトの卓も5人打ちなので三回戦終了後に一旦抜け番だということ。この抜け番でどこまで気力を持ち直せるか。(くそぅ、大好きな麻雀が…… いま、こんなにつらい。分かってる。楽しいばかりじゃないって。いま、私は、試されている……!)(まさか、あのミサトが3ラス食らうなんてね)(ミサトならきっと持ち直すわよ) と、マナミとカオリは先に対局を終えて遠くから観戦していた。(がんばれ!)(がんばれミサト!) ミサトの卓の五回戦。まだミサトにチャンスは来ていなかった。苦戦が続くミサト。ミサト手牌 切り番一一四六八⑤⑧⑨455白白中 ドラ⑤ ミサトはここから⑧を切った。ピンズはドラを活用した面子をひとつ持てばいい。それより役牌の重なりで打点を作る手順だ。すると中が重なる。打⑨(中切らなくて良かったわね)(これでもだいぶ